1. TOP
  2. COLUMN of COLUMN 4

今を生きる現代女性の美しさを、
彼女たちが心に描く、繊細でしなやか、
そして時に力強い風景と共にご紹介する
COLUMN of COLUMN。
日常のさまざまな角度から、
美の解釈を映しだし、
COLUMNを通してその女性の輝きが
宿る瞬間に触れる時間。

川上未映子(小説家、詩人) Instagram

「洋服と記憶は密接に関わり合っている」という、小説家の川上未映子さん。

偶然COLUMNの服と出合ったことをきっかけに、さまざまな洋服との記憶を辿ってくれた。

年齢を重ねていく上でのファッションとの関係性、社会のあらゆるシーンでの装い、
自身のクリエーションと服との関わりなど、そのしなやかなスタイルはどのように出来上がってきたのかを教えてもらう。

川上さんの小説やコラムにはファッションに関わる細やかでチャーミングな描写が時折見られる。読み手の私たちはそれを手がかりに、この登場人物はどんな人なのだろうと物語の世界に誘い込まれていく。自他共に認めるファッション好きの川上さんがファッションに興味をもったきっかけはとても身近な人だったと語る。

「お洋服って、一括りにファッションという言葉だけでは表せないないものです。私にとっては思い出と直結しているところがあるんです。
人によっては、食や住まい、風景に置き換わることもありますよね。
実は2週間前に母が亡くなったんですが、私と22歳しか離れていないので、とても綺麗で若い母親でした。
思い出すのは、授業参観日にひまわり柄の華やかなドレスを着てきてくれたこと。
恥ずかしいんだけど、どこか嬉しい気持ちもあって。お洋服と母を思う気持ちが結びついているので、自分もお洋服が好きなのだと思います。

母の病気が分かってから私が最初に何をしたかというと、お洋服を贈ったんです。やわらかくて、お母さんをずっと包んでいてくれるようなものを、たくさん。
母もとても喜んでくれました。それを全部残していなくなってしまいました。とても淋しいですね。それでも、お洋服はどこか私たちを守ってくれるような存在ですし、母の体にふれていたものですから、ずっと大切にしたいですね」

川上さんが愛用するCOLUMNのアイテムとして挙げてくれたのは、シフォンのパフスリーブブラウス。

「私は、本当にパフスリーブが好きなんですよね。さまざまなブランドのアイテムを購入してきましたが、自分の気持ちや体に、ぴたっとくる感触があります。
気分が、本当に変わるんですよね。これがファッションの恐ろしさですよね。COLUMNのブラウスはパフスリーブの肩の位置が少し下がっているのと、小さな襟からパフまでの距離感が完璧。

デザインだけが主張するのではなく、着る人が主になる服なのでメイクアップやアクセサリーなどで印象を変えながら着ています。
コンサバティブにも、すこしモードにも味付けできて、それでいてベーシックなデザインも多くて、今の自分にしっくりきました」

歳を重ねるごとに、ファッションとの向き合い方にも変化が生まれてきたと川上さん。

「基本的に家の書斎で仕事をすることが多いのですが、会食や受賞式など、人にお目にかかるときは違う服を着ていきたいので、それが新しいお洋服を買うモチベーションにはなっていますね。
自分の気持ちをあげるときや、その場にふさわしいお洋服を着たいという気持ちを大切にしています。メンタルとファッションってすごく響き合っているんです。

そんなに気持ちがあがっていないときは体のラインが出ないお洋服を着ると守られている感じがして、カジュアルにビッグサイズのシャツとパンツとスニーカーに。
目がぱっと開いて今日は活動的だなと思う日は体のラインが出るお洋服を選びたくなります。

昔は女の人の体の美しさってもっと画一的だったと思います。今はちょっと下腹が出ているのがセクシーだなとか、あえてワンサイズ下げて肉がついているのをみせるのも格好いいなとか、ファッション誌などの提案から得た社会通念から、このような新しい価値観をもらえているのかなと思います」

常にアンテナをはり、新しい価値観にアップデートし、紡がれる言葉は小説や詩となって表現される。川上さんの作品の世界にもきっと影響があるはず。

「私は言葉の人間なので、フィクションから得るものについて、いつも考えています。大人の女性にも、若い女性にも、いろんな魅力やあやういところあって、そのひとはどういう時にどんな服を着ているのか、どんな会話をしているのか、そういう詳細が、人物造形にしっかりと響いてきます。
また、だんだんと内面が外見に追いついていくというのが40代、50代になる楽しみなのかなと思うようになりました。

懐が深くなり、少し余裕がでてくることで、服はこうでないと、とか下着はこれだというジャッジはしなくなってきました。
若い時はもっと自分にも人にも厳しくて、張り詰めていましたが、今はこれもいいじゃん、あれもいいじゃんって思えるようになりました。

最近は“ケア”の大切さが共有されるようになってきたと思いますが、優しさは大切ですよね。だんだん自分が落ち着いてきたことで、人への感情の持ち方が変わってきている。
ここまで頑張ってきて耕してきたものが40代になり、ハーベストの時期を迎えているのかもしれませんね」

あらゆることに対して、リラックスしてきたという川上さん。これからはどんな女性になりたいかと聞くと、意外な答えが返ってきた。

「理想の女性像というのは、あまり持たないんです。何歳でこれを身につけて、とか何歳でこういうことをするというのは私の場合にはなくて。
ですが、憧れるのは、テイカー(持ち去る人)であるよりギバー(与える人)である人ですね。

見返りを求めないギブ(GIVE)の人は、自己犠牲とかではなくて、これがおいしいなと思ったら、一緒に共有できたり、つらかったり淋しかったりしたら、それをわかちあおうと思う気持ちを示すこと。
そうしてもらったことって、忘れられませんよね。心のなかの光になって、これから先にもやってくる、いろんな悲しくてつらい出来事を、優しく照らしてくれる存在になりますよね。そういう光を手渡せる人になりたいです」

川上未映子/Mieko Kawakami

Profile
作家、詩人。大阪府生まれ。2007年、『わたくし率 イン 歯一、または世界』で早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、’08年、『乳と卵』で芥川賞、’09年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞などを受賞。’19年、『夏物語』で毎日出版文化賞を受賞、本作は英米、独、伊などでベストセラーになり、世界40ヵ国以上で刊行が進む。『ヘヴン』の英訳は’22年、国際ブッカー賞最終候補に選出された。最新小説の『黄色い家』は'24年、読売文学賞を受賞した。